冷蔵庫、野菜 永田芳子 夏なので怖かった話を。 学生の頃、家族の仕事が忙しくなったので久しぶりに台所に立った。とりあえず冷蔵庫をチェックする。たまごある、味噌ある、マヨネーズ買う、ケチャップ保留。 順に点検をして、最後に野菜室を開けて見た。が、すぐに閉めて冷蔵庫から、数歩ではあるが本当に走って逃げた。 玉ねぎの芽がネットを突き破ってわけの分からない形に伸びてたんである。例によって顔にも声にも出やしないが、気持ちとしては「キャー!」といった所か。 玄関辺りで少しして、いや、玉ねぎじゃないか、と思う余地ができたので夕食は何とか用意した。 玉ねぎという野菜はは汎用性があるので、いちいち逃げてもいられない。それに、そのままではおかしな人である。思い返せば怖かった、というよりはもう少し色々混ざったキャーだったような気もする。今後の事もあるので、よくよく考えてみた。気持ち悪い、も確かだがもっと見ただけでマズい、言うならおぞましい寄り、どこが? 地味につめた結果、どうも自分は食べ物は死んだもの というイメージを強く持ちすぎていたらしい。小さい頃から魚を捌いたりしているせいか。そんな目で見れば、冷蔵庫という冷たい場所で、土も無いのにじりじり芽を伸ばし続ける玉ねぎなんて、ゾンビのようなもんである。 食べ物扱いをしていたものですっかり忘れていたが、魚や肉といったものとは死んでる/生きてるの線引きがまったく違うのだ。そんな事があって以来、買ってきた野菜は、植物の姿に戻る前にさっさと調理してしまう事にしている。そのほうが味も良い。